クリーン開発メカニズムの功罪

Photo: Kamal Kishore
<翻訳記事>
デリーの「ごみ拾い人」 (vs. カーボンクレジット)
牛や犬に混じって女性・子供がごみの山をあさる――インドでは決して珍しい光景ではない。先進国でリサイクルブームが始まるずっと前から、ゴミ拾いというインフォーマルな生業が同国の資源再生に一役買ってきた。人口1300万人の首都デリーにはこうした「ごみ拾い人」が何万人も存在する。スラムの住民にとっては、換金できるプラスチック、紙、金属などの資源が唯一の収入源であることも少なくない。
ごみ拾い人の教育に携わる現地NGO、チンタンのバラティ・チャタルヴェディによると、ごみは最貧困層の貴重な収入源であり、デリーでは人口の1%強が市のごみの9~59%をリサイクルしている。「ごみ拾いは無料の公共サービス」なのだ。
ところがこの状況がまもなく一変しそうだ。ごみを焼却してエネルギーに変える新たなごみ焼却場がデリー郊外のティマルプールに建設される予定なのだ。ごみ置き場からのメタンガス発生が抑えられることから、京都議定書のクリーン開発メカニズム(CDM)を利用したカーボンクレジットの獲得が期待されている。だが焼却場からは発がん性のあるダイオキシンや水銀、重金属、飛灰も排出される。貧困にあえぐごみ拾い人の収入を奪ってまでクレジットを獲得する価値はあるのか。
CDMはもともと、途上国のクリーンエネルギー技術やプロジェクトを援助し、途上国の開発を促す新たな媒体として設置された。CDMでは途上国でのプロジェクトで得られたカーボンクレジットを先進国に売ることができる。これにより豊かな国は、貧しい国で削減された排出量を自国内の温室効果ガス排出目標に算入することができる。だがCDMは、火力発電の燃料効率向上や製鉄所での廃熱利用の促進など、一部の汚染産業の助成につながるという批判もあり、また先進国での積極的な温室効果ガス削減が進まないとも懸念されている。この仕組みを利用して儲ける仲介業者も多く、たとえば世銀は、仲介する案件すべてに13%のコミッションを課している。
ティマルプールのケースをとると、賛成派の主張はこうだ。焼却所はごみからエネルギーを生む。ごみを燃料に使うことで化石燃料の利用が減る。したがって化石燃料に由来するCO2排出量が減り、カーボンクレジットが獲得できる。さらに焼却業者は、メタンガスの発生源である腐敗ごみに注目する。メタンガスはCO2の24倍も温室効果があるため、腐敗ごみの焼却はメタンガスの排出量削減に大きく貢献する。焼却でCO2が排出されるがその温室効果はメタンの比ではない。
インフォーマルだが着実に効果を上げていたリサイクル業界は断固反対の立場をとっている。デリーではこれまでもオーストラリアやオランダの焼却事業者から建設の案件が出されてきたが、ニューデリー、ジャワハルラル・ネルー大学で公衆衛生を研究するゴパール・クリシュナは、公衆衛生上の懸念を政府に訴え、これらの案件を却下させてきた。クリシュナは語る。「過去にも疑わしい案件を6件阻止してきたが、今回はカーボンクレジットの名の下に、いかさまの主張がまかりとおっている」
またGAIA(脱焼却グローバル連合)のニール・タングリによると、デリーで焼却場の建設が実現しないのは「可燃ごみが少ない」ことが原因だ。「デリーのごみは水分量が多く、灰や砂など不燃性の不活性物質を大量に含んでいる」。つまり、熱心なごみ拾いのおかげでプラスチックや紙など可燃ごみが少ないのだ。
しかしそんな反発をよそに、ティマルプールの焼却場は、CDMを利用したごみ焼却プロジェクトの第1号となる可能性が高くなってきた。焼却場の建設を通じて世界の炭素市場から多大な収益が見込まれることがわかると、政治的な流れも変わってきたのだ。ごみ拾い人はごみ捨て場の管理者の嫌がらせを受けるようになり、また焼却場が欲しがる乾燥した高カロリーごみの収拾も禁じられた。
「焼却場の建設は最貧困層の生活を否定するもの」。チャタルヴェディは語る。「困難な状況にある人々を追い込むのは犯罪に近い。インドでは食糧価格も高騰している。貧困層はどうしたらいいのか。持続可能な社会に不可欠な、大規模な土着のリサイクル慣行が全滅しそうだ」
こうしたプロジェクトはCDMが意図する「クリーン開発」とは程遠い。問題はまだある。焼却飛灰はどう処理するのか。GAIAと国際POPs廃絶ネットワークで科学アドバイザーを務めるパトリシア・コスナーは語る。「インド全土を見て回ったが、焼却灰の大半は道端に投棄されている。インドには産業廃棄物の埋立処理施設がない。飛灰や主灰は他国では念入りに処理されているが、インドにはそんなインフラがないのだ」
焼却灰の不適切な処理は、デリーの貧困層に新たな害をもたらす。「ごみ置き場に近づけなくなったごみ拾い人は、唯一焼けずに残った金属を探して灰の山をあさるようになった」。GAIAのタングリは語る。「太ももまで焼却灰に埋もれて金属を探す光景をみたことがある。まるで歩く汚染物質吸収装置。これでは毒をさじで与えてるようなものだ」
インド政府と最高裁判所は焼却場の妥当性に懐疑的だが、カーボンクレジット構想をもっとも熱心に提唱するのが前環境森林大臣のラジェッシュ・クマール・セティだ。セティはCDMに適した案件を決定する顧問組織、CDM執行委員会の委員長に選ばれたばかり。「案件を審査する中央汚染管理委員会はセティが前大臣をつとめた環境森林省の内部組織であり、ここを不正に通過した案件をセティが疑問視することはないだろう」とクリシュナは語る。
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以上は IPS(Institute for Policy Studies) のDaphne Wysham が作成した2件のレポートをまとめて翻訳したものです。
“Carbon Market Fundamentalism” by Daphne Wysham, November 22, 2008 12:00AM
“The Waste-Pickers of Delhi” by Daphne Wysham, August 4, 2008 12:00AM